Yururi Island・ユルリ島 | BIFUKA・美深 | THE WORLD・世界 | MOTHER | I am | 1999

 

" Yururi Island "

Yururi Island

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ユルリ島の野生馬

 

北海道根室半島沖に浮かぶ無人島。その島はかつて「馬の楽園」といわれた。

しかしその楽園はいま、静かに終焉の時を迎えようとしている。

 

 

 北海道根室市昆布盛沖にあるユルリ島には、かつて昆布漁の労力として島に持ち込まれた馬の子孫が、無人島となったいまでも生きている。ユルリ島は、周囲7.8km、面積168ha、海抜43m。台地状の島の海岸線の大部分は30~40mの絶壁をなし、岩礁で囲まれている。その切り立った断崖の上に昆布を引き上げるため、馬の力が必要だった。

 「ウリル」はアイヌ語で「鵜の居る」を意味し、それが変化して「ユルリ」となった。島はエトピリカやチシマウガラスなど、希少鳥類に指定されている鳥の繁殖地であるため、北海道の天然記念物や国の鳥獣保護区に指定されている。そのためメディアをはじめ、人の立ち入りは固く禁止されている。

 ユルリ島に馬がはじめて持ち込まれたのは1950年頃である。戦後、本土に昆布の干場を持たなかった漁師が、土地を求めて島に移り住み、切り立った断崖上にある干場に昆布を引き上げるため、馬を島に持ち込んだ。馬は30~40m程ある崖の上で、網に詰め木枠に入れられた昆布を、櫓に下がった滑車を使って引き上げた。最も多い時期には、約9軒の番屋と7基の櫓があった。いまでも島には櫓跡が数カ所残り、干場跡に残る小石が当時の生活を偲ばせる。

 しかし昭和40年代(1965年以降)になると、本土に新しい干場ができ、エンジン付きの船も普及しはじめた。それは、かつて昆布の干場を求めて島に渡った漁師にとって、島で生活を続ける必然性がなくなったことを意味した。やがて島から人が去りはじめ、最後の漁師が島を後にしたのは、1971年のことだった。島の馬は、「連れてかえってきたところで馬を放つ場所がない。これまで頑張ってきた馬を、肉として売ってしまうのも忍びない。せめて余生を島で暮らせたら」という漁師の思いから、馬の餌となるアイヌミヤコザサや湧き水が豊富なユルリ島に残された。本土でもトラックの普及により、多くの家が馬を売った。

 その後、ユルリ島の馬は、近親交配を避けるため、種馬だけが約5年おきに入替えられ、雄馬が生まれると間引きされた。多い時には約30頭の馬が生息し、給餌を受けず、交配や出産は自然にまかされた。人が去ったユルリ島で、馬は崖の上で昆布を引き上げることもなく、島のなかで静かに世代を重ねた。しかし2006年、間引きをしていた漁師たちの高齢化もあり、種馬が島から引き上げられた。島には14頭の雌馬だけが残り、馬はやがて消えゆく運命となった。

 2006年に14頭いた馬は、2011年には12頭、2015年には5頭にまで減った。夏になれば花畑とかすユルリ島は、約300種の植物が生育するため北海道の自然環境保全地域に指定されている。しかし馬がいなくなれば、馬の餌となるイネ科の植物などで島は覆われ、希少な高山植物を含め、島の植生は大きく変わってしまうだろう。鳥だけではなく、植物や馬も含めて北海道の天然記念物に指定されていれば、ユルリ島には違った未来があったのかもしれない。

 根室半島沖に浮かぶ小さな楽園で生きる馬の姿をみていると、僕たちはいま文化としてなにを守り、後世に伝えてゆくのか、そうしたことが問われているような気がする。

 

 

写真家 岡田 敦 2016年

 

 

◇ ユルリ島は北海道の天然記念物に指定されているため島への無断上陸は禁止されている。本作品は根室市から島の環境及び動植物の調査・研究のため撮影を委託されたものである。

 

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